個人事業主の方でも法人の方でも、人を雇用したときに「保険加入の手続きが必要」と知ってはいても、実際には何をするのかよくわからない、と思う方も多いのではないでしょうか。
広い意味での社会保険の定義は様々ありますが、「人を雇うときに加入しなければいけない保険が何か分からない」と悩まれている事業主の視点から、今回は社会保険についてお伝えしたいと思います。
加入できる健康保険について
組合健保・・・企業が単独あるいは共同して設立したもの
協会健保・・・組合健保を設立しない企業の会社員向け全国健康保険協会が運営するもの
各種共済組合・・・国家公務員や地方公務員、私立学校の職員が対象のもの
国民健康保険・・・各自治体が運営するもの
国民健康保険組合・・・医師や税理士など同じ職種の人を組合員とするもの
人を雇うとき、加入の必要を考える社会保険には「厚生年金/健康保険/介護保険」の3つがあります。ちなみに労働保険は「労災保険/雇用保険」となりますが、今回は社会保険について、それぞれの保険や届出の仕組み等についてお伝えしていきたいと思います。
厚生年金保険は、労働者が高齢となって働けなくなったり、何らかの病気やけがによって身体に障害が残ってしまったり、その家計において主たる収入を得ていた方を亡くしたことでその遺族が困窮してしまうといった事態に際し、保険給付を行う制度です。その方の加入期間と支払った金額などの加入要件により給付の内容が決まります。
また、厚生年金保険は社会保険適用事業所にお勤めの方を対象とした保険で、日本に住んでいる二十歳以上の方であれば基本的に強制加入となる国民年金に上乗せとなる保険です。
労働者やその家族が病気やけがをしたときや出産をしたとき、亡くなったときなどに、必要な医療給付や手当金の支給をすることで生活を安定させることを目的とした社会保険制度で、業務外の怪我や病気などの際に病院で治療等を例えば費用の3割負担などで受けられます。全国の都道府県にある協会けんぽや医師や税理士、企業が運営する組合健保組合などに加入して必要な医療等のサービスを受けることになります。
40歳以上の方で健康保険に加入されている方は加入が義務付けられています。40歳から64歳までが加入期間となり、保険料は健康保険と併せて徴収されます。
一定の年齢から費用の1割〜3割の負担で介護サービス等の給付を受けられます。
厚生年金保険は、事業所単位で適用されます。
- 強制適用所
厚生年金保険の適用事業所となるのは、株式会社などの法人の事業所(事業主のみの場合を含む)です。また、従業員が常時5人以上いる個人の事業所についても、農林漁業、サービス業などの場合を除いて厚生年金保険の適用事業所となります。被保険者となるべき従業員を使用している場合は、必ず加入手続きをしなければいけません。
令和4年10月から【法律・会計にかかる業務を行う士業】に該当する個人事業所のうち、常時5人以上の従業員を雇用している事業所は、強制適用事業所となりました。
【適用の対象となる士業】
弁護士、沖縄弁護士、外国法事務弁護士、公認会計士、公証人、司法書士、土地家屋調査士、行政書士、海事代理士、税理士、社会保険労務士、弁理士
- 任意適用事業所
強制適用事業所以外の事業所であっても、従業員の半数以上が厚生年金保険の適用事業所となることに同意し、事業主が申請して厚生労働大臣の認可を受けることにより適用事業所となることができます。
- 被保険者
厚生年金保険に加入している会社、工場、商店、船舶などの適用事業所に常用的に使用される(※)70歳未満の方は、国籍や性別、年金の受給の有無にかかわらず、厚生年金保険の被保険者となります。
(※)雇用契約書の有無などとは関係なく、適用事業所で働き、労務の対償として給与や賃金を受ける使用関係をいいます。試用期間中でも報酬が支払われる場合は、使用関係が認められることとなります。
- パートタイマー・アルバイト等
パートタイマー・アルバイト等でも事業所と常用的使用関係にある場合は、被保険者となります。1週間の所定労働時間および1カ月の所定労働日数が同じ事業所で同様の業務に従事している通常の労働者の4分の3以上である方も対象です。
「特定適用事業所」「任意特定適用事業所」または「国・地方公共団体に属する事業所」に勤務する、通常の労働者の1週間の所定労働時間または、1月の所定労働日数が4分の3未満である方で、以下の1.から3.のすべてに該当する方が対象です。
- 週の所定労働時間が20時間以上あること
- 賃金の月額が8.8万円以上であること
- 学生でないこと
令和4年10月より、「雇用期間が1年以上見込まれること」が、要件から除かれました。
【資格取得届】新たに社会保険加入をするとき
人を新たに雇ったとき以外にも、労働時間増加や雇用区分の変更などにより、社会保険の適用対象となるタイミングなどもあります。 手続きは、加入することとなった日から5日以内に、被保険者取得届を提出します。新規雇い入れ時は、まだ賃金計算期間が終わっていないので、労働条件通知書に記載のある月給や通勤手当など報酬に含める賃金を計算して届出をすることになります。厚生労働大臣はこの届け出の内容に基づき、標準報酬月額を決定通知します。
【算定基礎届】7月1日に社会保険加入者がいるとき
健康保険・厚生年金保険の被保険者および70歳以上被用者の実際の報酬と、標準報酬月額の間に大きな差が生じないように、事業主は7月1日現在で使用している全被保険者の3か月間(4、5、6月)の報酬月額を「算定基礎届」により7月10日までに届出し、厚生労働大臣はこの届け出内容に基づき、毎年1回標準報酬月額を決定しなおします。
決定しなおした標準報酬月額は、9月から翌年8月までの各月に適用され、賃金の変動がない場合は基本的には1年間同じ標準報酬月額となるので等級に変更はありませんが、社会保険の保険料は毎年3月に改定があり、保険料が変更となることもあります。保険料は労使折半が原則であり、給与計算の控除額変更が生じることもありますから、保険料改定のお知らせなどには必ず目を通してください。
【月額変更届】社会保険加入者の賃金額に増減があったとき
賃金を上げたり下げたりしたときや、月給は変わっていないが残業が発生して賃金が増えたとき、手当が増えた時、引っ越して通勤手当が大幅に増えたときなど、賃金に変動があり、随時改定の要件に当てはまった場合は、報酬月額変更届を提出します。標準報酬月額が上下すれば、保険料も上下します。
また、毎年10月には全国で最低賃金の変更があり、労働者に支払う賃金が変わる場合もあるのでこの時期の賃金変更にも注意が必要です。
手続きのタイミングは変更があったらすぐではなく、変更となった賃金の支払いが3か月あった後、4か月目に提出をします。たとえば、昇給で1月支払い分の賃金が標準報酬月額より2等級以上変動した場合は、1,2,3月の賃金支払いのデータに基づき、4月に変更届を提出します。
賃金の変動に標準報酬月額で2等級以上の差がない場合や、1か月の支払い基礎日数が17日ない場合などは変更の対象とはなりません。
【賞与支払い届】賞与に該当する支払いをしたとき
社会保険では、賞与とは「いかなる名称であるかを問わず、労働者が労働の対償として受けるもののうち、年3回以下の支給のもの」をいいます。年4回以上支給されるものは、標準報酬月額の対象とされ、また、結婚祝い金などは労働の対償とはみなされないため、対象外となります。
労働の対償として受け取るもののうち、年3回以下支給されるものに該当すれば、例え1000円でも賞与支払い届の提出が必要となります。
手続きは、賞与の支払いがあった日から5日以内に賞与支払い届を提出することになります。
また、標準賞与額には上限があり、健康保険は年度の累計が573万円で、厚生年金は1か月あたり150万円となります。健康保険の場合、累計額が573万円を超えたときは、健康保険標準賞与額累計申請書を提出します。
【被扶養者異動届】結婚や就職などにより扶養家族の社会保険加入が必要となったとき
一定の要件を満たすことで、被保険者の被扶養者として認められれば、被扶養者も社会保険に加入することができますが、被扶養者自身の保険料の納付は不要です。その際に被扶養者異動届を提出します。
被扶養者と認定されるための要件については、日本国内に住所(住民票)を有しており、被保険者により主として生計を維持されていること、および収入要件や同一世帯の条件があります。
収入要件としては、被扶養者の年間収入が130万未満(認定対象者が60歳以上または障害厚生年金を受けられる程度の障害者の場合は180万円未満)かつ
・同居の場合は、収入が扶養者(被保険者)の収入の半分未満
・別居の場合は、収入が扶養者(被保険者)からの仕送り額未満
同一世帯の条件としては、配偶者、子・孫及び兄弟姉妹、父母・祖父母などの直系尊属であれば、被保険者と同居している必要はありませんが、それ以外の3親等以内の親族や内縁関係の配偶者の父母及び子については、被保険者と同居していることが必要となります。
届出はマイナンバーの提出が必要となること、マイナンバー等で同居が確認できない、別居の場合仕送り等の生計維持の状況が確認できないなどがあれば、被扶養者と認められないことがあります。
手続きは、被扶養者となったら速やかに届出をするよう決められています。
【被扶養者非該当届】被保険者の被扶養者が就職をしたとき
例えば、これまで被保険者の被扶養者として認定されていたお子さんが就職をして会社員になった場合などは、被扶養者非該当の届出が必要となります。
手続き期限は速やかにというルールとなっていますが、対象となる方の保険証は必ず返却をしなければならないので、紛失してしまわないよう速やかに対象者から事業主が回収し返却をすることが必要になります。
【被保険者資格喪失届】被保険者でなくなった時
会社に勤めていた従業員が会社を辞めた場合が代表的ですが、勤務時間が短くなる等加入対象外となる場合なども、社会保険の被保険者資格喪失届を提出することとなります。
手続きは退職日から5日以内となり、上記同様保険証の返却の必要があるので、必ず保険証は事業主が被保険者より回収をしてください。
・自社で行う場合は、総務人事など専任の方や手続きに詳しい事業主の方ご自身が行うなど、本来の正しいルール理解に加え、法改正に対応した手続きなど専門的な知識が必要となります。
・社会保険労務士に依頼する場合は、社会保険労務士と顧問契約を締結していることが多いかと思いますが、スポットで算定基礎届だけ、などの依頼も受託可能な社会保険労務士の方も一定数います。ご自身の事業にあったスタイルで対応可能かどうかを、まずはご相談されると良いかと思います。
社会保険の手続きは複雑で理解が難しい点もあり、また社会保険料は事業主の費用負担も大きいものですが、労働者の疾病や障害などに際して保険給付がありますので、労働者だけではなく事業主にとってもメリットになります。
また、近年のマイナンバー導入により、社会保険未加入に対する調査もさらに進むと考えられますので、事業主の皆様には常に法令を遵守する意識をお持ちいただければと思います。
雇入の際の賃金をもとに「資格取得届」を日本年金機構に提出することで、その方の標準報酬月額がランクによって決定し、月額の社会保険料が決まります。
基本的には厚生年金保険料と健康保険料は労使折半ですが、こども・子育て拠出金は事業主負担になるので注意が必要です。
また、届け出る賃金については、基本給はもちろん、通勤手当などの各種手当も含んだ額となります。例えば通勤手当が6ヶ月ごとの支給となっている場合は、1ヶ月分に計算した額を加えます。
「標準報酬月額」は、月々の従業員の賃金を健康保険は1~50の等級、厚生年金は1~32等級まであり、等級ごとに保険料が決まっています。被保険者となるご本人の、実際の報酬に基づいた報酬月額の届出をすることにより、標準報酬月額表に当てはまる「標準報酬月額」が決定することで、納付する保険料も決定します。
報酬月額に含める報酬の注意点
報酬とは労働の対償となるものであり、月給はもちろん通勤手当、残業手当なども含めます。通勤手当を6か月単位で支給している場合は1か月の支給額に計算をし直して含めます。一方で見舞金や出張旅費、傷病手当金などは労働の対償ではないため除きます。
社会保険の加入ができない年齢でも、在籍している人は同様の届出が必要
70歳や75歳などに到達しても、被用者(会社に所属して賃金を得ている)であれば退職または死亡しない限りは、算定基礎届や月額変更届の提出は必要です。在職老齢年金との調整有無の確認のために、社会保険に加入ができない年齢でも、必ず届出が必要になります。
賞与支払い予定月に賞与の支払いがないときは、賞与不支給報告書の提出が必要
賞与支払予定月に、賞与を支給しなかった場合は、「賞与不支給報告書」の提出が必要になります。
賞与という名称でなくても、年3回以下の臨時の賃金については支払額の多寡や名称の如何に問わず、賞与支払い届の届出が必要
賞与についても健康保険・厚生年金保険の毎月の保険料と同率の保険料を納付することになっています。事業主が被保険者および70歳以上被用者へ賞与を支給した場合には、支給日より5日以内に「被保険者賞与支払届」により支給額等を届出します。
この届出内容により標準賞与額が決定され、これにより賞与の保険料額が決定されるとともに、被保険者が受給する年金額の計算の基礎となります。
毎年7月10日までに行う算定基礎届の提出は、以下は提出対象外となる
・6月1日以降に資格取得したもの
・6月30日以前に退職したもの
・7月改定の月額変更届を提出するもの
・8月または9月に随時改訂が予定されている旨の申し出を行ったもの
その他、特別なきっかけとして
・妊娠、出産、育児をきっかけとした社会保険の手続き
・けがや病気をきっかけとした社会保険の手続き
については、以下のページにてご紹介しています。
社会保険の手続きは、本当にたくさんの手続きがあり、手続き期限が5日以内であるものがほとんどです。健康保険は雇保険と違い、保険証があれば病院に行ってすぐに治療を受けるなど保険給付を受けることができてしまうものですので、資格喪失などの手続き期限はかなり短く設定されています。
お忙しい事業主の皆様がご自身で対応される場合は、気づいたらかなり日数が経過していたということも有り得ますし、そうなれば従業員の方やご家族の方への健康保険証のお渡しの遅れにつながり、必要な医療を必要なタイミングで受けることに支障が出ることもあります。
また、年金事務所の調査も例年以上に増えており、賃金台帳と源泉所得税領収書を突合し、人数や給与総額、出勤簿から被保険者となる対象者を確認するなどの細かな調査を実施しており、調査の結果、もし漏れや間違いがあれば、遡及加入や保険料の追加支払いなども発生します。
ぜひ、届け出のルールや期日などを理解し、適正な手続きを行えるよう、事業主の皆様にはご認識頂けると幸いです。
社会保険の手続きは、郵送や年金事務所へ直接出向くなどの方法もありますが、正直かなりの手間ではあります。郵送ですと手続きの進捗状況がわかりませんし、年金事務所へ直接出向くことになれば所要時間は半日に及ぶこともあります。
お忙しい事業主の皆様には、ぜひオンラインでの専門家による手続きをご検討いただければと思います。
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生島 亮
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